Today & Tomorrow

校長 宮阪元子

Motoko Miyasaka

“幸福な自己実現”と
“本質的で実戦的な能力”の育成を求めて
洗足の教育は、さらに進化し続けていきます。

備えある者には
活躍の機会が待っている

 「架け橋になりたい。」ある卒業生の言葉です。健康と教育という2分野の架け橋になり世界のこどもたちに質の高い教育を届けたい、という強い思いが集約された言葉です。この思いを持つきっかけは、6年間の学びの中で「教育を受けられるということはあたりまえということではなく、むしろそれだけで恵まれている」と気づいたことでした。この卒業生の言葉は次のように結ばれます。「世界で実際に起こっている問題は様々な要素が複雑に絡み合っています。複数分野の知識をあわせ持った架け橋となる人材が求められるのです。」と。洗足学園の卒業生は、社会に貢献したいという崇高な思いを持ち、それぞれが必要とされるところで挑戦を恐れず力を発揮しています。我々はそれを誇りに感じています。
 さて、不透明で課題の多い・・・と言われている未来。確かに私たちは未来に向かって様々な要素が複雑に絡み合った多くの課題を抱えています。国内的には、人口減少や超高齢化に向かう社会、悪化する一方の財政状況、過疎化の進む地方と大都市への一極集中等の難題が、さらに世界規模で考えると、経済格差やそこからくる教育格差、止まらない環境破壊、食料やエネルギー不足、民族・宗教の対立といった数多くの課題を認めざるを得ない状況です。これは、将来世代、すなわち現在の生徒たちに残される負の遺産といえるものに違いありません。少なくとも未来は予想しづらく、「明るい未来が待っている」と単純には言えないことは確かでしょう。
 しかし、そのような状況だからこそ、新たな知恵とチャレンジスピリットが求められていると思えてなりません。そしてそこにはそれぞれの課題を乗り越えていく新たな人物の活躍が予想できるのです。未来に向かって取り組むべき課題は、あらゆる分野に、そして地球規模に存在しています。そして未来は、それらの課題の解決に果敢に挑戦する意欲を持った、高邁で有能な人物を強く求めています。
 洗足学園が日々の教育活動を通して願うことは、生徒たちにそのような人物となってもらいたいということです。高い知性と幅広い教養を身に付け、継続してやり遂げるという真摯な姿勢とともに、他者を思いやることのできる心がある人物、高い志とチャレンジスピリットを併せ持つ社会のリーダー、すなわち「社会に有為な女性」です。

教育創造への
譲れない二つの基軸

 洗足学園は、図らずも生徒それぞれの6年間の中に、学内外にまたがる多様なチャレンジの機会を創り出してきました。1924年、関東大震災の翌年に女性の自立を支える教育の必要性を感じた前田若尾先生によって設立された洗足学園は、幾多の困難を乗り越えて今では幼稚園から大学院までを擁する総合学園となりました。洗足学園の歴史はまさに「挑戦」の連続でした。その精神は確実に受け継がれ、日々の授業や活動を通し、また、自分たちで作り上げる行事を通し、さらには教師の言葉あるいは友との語らいを通し、生徒たちの自立は促され、社会貢献への視野は広がります。他流試合と呼ぶコンクールやコンテスト、研修や体験プログラムのメニューは、今や300に迫り、生徒の意識を覚醒させ、眠っている可能性を呼び覚まし、知的・精神的成長へと導く大きな教育機会として定着してきました。この学外チャレンジプログラムがここまで膨らんできたのは、生徒たち自身の発意によるものであり、挑戦意欲によるものに他なりません。青少年赤十字の世界大会で災害対策の活動について意見を交わす生徒、フィリピンで行われた医療ボランティア活動に携わる生徒など、特にここ数年、国内外でのボランティア活動に参加する生徒が増えています。本校の生徒がボランティアの活動に積極的に取り組むのには理由があります。中学2年時に学校の取り組みとして全員がボランティアについて学び、ボランティア活動の意義を一人ひとりが真剣に考えるからです。今年度は、JICAで働いている卒業生が、本校で講演会を行い、現在の世界の状況なども含めて後輩たちに説明をしてくれました。自分自身が中学2年時の経験がきっかけとなり開発途上国を助ける仕事を選んだという話は、生徒たちが深く考えるきっかけとなりました。国境なき医師団の一員として活躍している卒業生の話を聞き、医師を目指し実際に医療の現場で人々に貢献する道に進んだ生徒もいます。あるいはアジア・オセアニアフォーラムや、ニューヨーク、ハーバードなどで開催される模擬国連で各国の生徒と世界規模の課題について意見を交わすなど、生徒たちの活躍の場は広がっていきます。これらの挑戦は、その後の進路選択にも大きな影響をもたらしてくれます。
 このような生徒たちを前に、我々教師がすべきことは、生徒が何かに挑戦したいと考えたとき、あるいは、自分の目指すべき進路を見つけたとき、それを後押ししてあげることだと考えます。
 生徒たちの将来を見据えた本質的な教育創造への取り組みは、本校が最も力を注いできたところです。長年をかけて築きあげてきた国際化対応の結果、語学研修や留学など在学中に海外を経験する生徒が格段に増えました。今ではアイビー・リーグやリベラル・アーツ・カレッジなど海外の大学に進学する生徒も増えています。土曜日の午後に開催している自由参加の教養講座では授業の枠を超えた内容を扱います。今後はプログラミングとロボットを結びつけたプログラムなども行う予定です。生徒自治の促進、数学必修化等の施策も、これからの社会においての貢献・活躍という長期の視点に立ったものです。
 言うまでもなく教育創造への取り組みは、現在さらに活発化しており、新たに「哲学的対話」や「教科融合」、「授業変革」等々の数多くの研究プロジェクトが設けられ、効果的なプログラムを実施して参ります。哲学プログラムでは、「幸福とは」「世界の対立や不平等を克服することはできるのか」などの問いに対して生徒たちがいろいろな立場からの考えを述べ合い、対話を進めるというような取り組みが始まりました。もちろん対話を進めるためには多分野にわたる基礎知識が必要です。このような活動の中で、生徒たちは、授業を通して身につける知識、問題のとらえ方、あるいは考えの深め方などがいかに重要であるかということを再認識し、日々の学びの意義を理解します。本校の授業では、物事を論理的に捉えたり、問題を解決したりするために必要な圧倒的な基礎力を身につけることを大切にしています。その上で、幅広い考えへと広げることのできる工夫も凝らされています。例えば、英語科がトルコ文化を紹介する文章を扱った際、世界史の教師も授業に参加し、世界史の観点から英語でトルコの説明をするといった授業も行います。
 学校は心の豊かさを涵養する場でもありたいと考えています。洗足学園は音楽に満ちあふれた学園でもあります。「洗足学園中学高等学校フィルハーモニー管弦楽団(Sオケ)」は、今年で設立12年目を迎えますが、現在では新たに入団した中1を含めると200名以上の部員を有するオーケストラとなりました。指揮は、日本を代表する指揮者、秋山和慶先生がなさっています。音楽の授業も学校独自のプログラムを行います。全員の生徒がバイオリンやトランペットなど、ひとつの楽器を習得するプログラムを行います。合唱コンクールが近づいてくると生徒の歌声が、行事が近づいてくると吹奏楽部や弦楽合奏部の練習の音が、時に美しく、時にリズミカルに校舎に響きます。エントランスで朝の挨拶のような合唱部のミニコンサートが行われることもあります。また、校舎に置かれた数々の彫刻や美術品は、生徒たちに本物の芸術に触れる機会を与えます。音楽や美術など、これからの時代、心の豊かさを考える上で欠かすことの出来ない「芸術」が教育の身近にあることの意味は大きいと考えます。
 洗足の教育創造の基本コンセプトは二つあり、その一つは『幸福な自己実現』ということに置かれています。ここには、何よりもまずひとり一人が幸福な人生を歩んでいってほしいという教師としての強い思いがあり、同時に、自分らしい生き方の中で能力を発揮していってほしいという、譲れない願いが込められています。
 幸福を突き詰めていくと、自己の欲求の充足以上に、他者との喜びの共有や他者の幸福への貢献という条件が浮かび上がります。つまり『幸福な自己実現』こそが、他者や社会への貢献につながる生き方を明示しているのです。
 二つ目は『本質的で実戦的な能力の育成』ということです。机上の学力で終わらない、社会での実戦力、その必要に照らした活きる能力と、それにつながる本質的な学力を築く教育を創り上げていかなければならないと考えているところです。授業も各種の教育プログラムも、この視点で創り上げられます。洗足学園での日々は、ひとり一人が社会の「架け橋」となり人々に貢献するために必要な基礎力を身につけるための6年間なのです。
 常に中高一貫教育の先端に立ち、他校に先駆けて教育進化を遂げてきた洗足学園は、時代の変化に怯むことなくさらに進化し続けます。未知の世界を切り開く新しい英傑は、ここから生まれてくるはずです。

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