Today & Tomorrow

校長 宮阪元子

Motoko Miyasaka

予測困難で不透明な未来に羽ばたいていく生徒たち。
そこは今まで経験したことのない挑戦の場となるでしょう。
だからこそ私たちは、全ての判断の基となる価値観の階段を、生徒それぞれの中に築きあげ、
自己発展の礎となる知恵と技能、柔軟な思考と豊かな感性、
そして生涯衰えることのない
知的探求心とチャレンジスピリットを
創り上げていきたいと考えています。

拓かれる進路

 過去十数年にわたって、変化を恐れずに重ねてきた改革と施策。その中で、未だ豊熟とは呼べないものの、時間をかけて結実してきたと私たちが感じているものがあります。それは、進路選択の多様化です。特に理系と医学部進学者の増加であり、海外大学進学者の増加です。
  まず、理系や医学系への進学者増加については、もちろん一般的に言われている理系・医学系人気も影響しているでしょう。しかし、もともと環境としては整っていたところに、洗足での多くの体験を通して、また先輩たちの進路選択をみて、後に続きたいと希望し、あきらめることなく、最後までチャレンジする生徒が、年々増えてきたと考えられます。
  理系や医学系進学の増加から感じ取れる側面は、「生き方や職業等のビジョンの構築」というところにあります。将来のビジョンに沿った進路選択は、進路指導の理想としているところですが、現実を踏まえた上で夢を描き出すことの難しさや、学力との相関から、実現するのは困難だとあきらめてしまう場合もあります。しかしながら、洗足の生徒たちは、夢の実現に向けて「将来像の構築」と「必要な学力」という二つの課題に挑戦し、見事にクリアーしたと評価することができるでしょう。
  海外大学進学については、本校から初めての進学者が現れたのは15年ほど前だったと記憶しています。中高一貫化に踏み切った当初から英語力増強には特に力を注いできており、帰国生を受け入れ、標準英語検定として真っ先にTOEFLを取り入れるなど、実戦的英語力の育成を掲げてきたものの、実際の海外大学進学者はなかなか誕生しなかったのを思い出します。もちろんその当時は、社会でも今ほどは大きくグローバル化が叫ばれていなかったわけですし、留学費用の高さも障壁となっていたのは確かでしょう。しかしながら本校の先人達は、賢くも、やがて訪れるであろう国際化の時代を確かに見据えて、海外進学に粘り強くチャレンジし続けてきたのです。
  ここ数年は、帰国生のみならず一般生でも海外大学に進学する生徒が出現しています。ハーバード大学やイェール大学などのアイビー・リーグへ進学する生徒がいる一方で、リベラル・アーツ・カレッジへの進学を選択する生徒も徐々に増えてきています。これが何を意味するのでしょうか?彼女たちの視野には4年後の専門大学院への進学が捉えられているのです。欧米の高等教育は、大学を経て専門大学院での学びへと進むのが一般的で、スペシャリストとしての評価はそこで初めて生まれてくることになります。海外大学への進学は、国際舞台での本当の活躍を考えるからこそ生まれてくる進路選択であり、生徒たちの成長と意識の進化を感じ取っています。
  これらの背景には、日々の教育実践はもとより、定期的に行ってきた講演会や自己啓発的なプログラム、あるいは、我々が他流試合と呼ぶ学外セミナーやコンクールへの参加体験なども良い意味で影響していると考えています。生き方や社会、多様な価値観に触れ深く考える機会が、生徒たちの中に、価値ある将来像を創り出し、同時にその将来像を実現するための努力を導き出すモチベーションや原動力として働いているのは確かです。
  こうして、生徒たちが将来の選択を考えたときに、生徒自身が持つ可能性と相まって、多様な選択が現実のものとなったのでしょう。今以上に多くの場面で、そして世界のいたるところで、様々な分野で、活き活きと活躍している卒業生たちの姿を目にする日も、もうそこまで来ているのではないかと楽しみにしているところです。

不透明な未来にあっても、
幸福に生きられる礎

  さて、これからやってくる未来社会を私たちはどう展望し、教育の中でどのような備えをしていくべきでしょうか。
  急激に変動する21世紀、これからを展望するのは非常に困難です。地球規模では、流動的な国際情勢、自然環境の破壊、なくならない民族対立、拡散する核兵器等々の問題が横たわっており、日本国内では、人口減少と超高齢化社会、悪化する財政、衰退する地方都市、等々の難題が山積しています。これらに加え、AIを始めとする科学技術の革新という要素が加わり、未来は極めて読みづらい不透明なものになっています。それでも私たちはこの不透明な時代に、生徒たちを世に送り出していかなければなりません。この不透明な未来に、幸福に、活き活きと自己を実現していくためにはどのような素養を身につけておくことが必要なのでしょうか。
  今年、洗足学園のエントランスホールに一つのブロンズ像が建立されました。古代ローマのミネルヴァの女神像です。ミネルヴァは医学、知恵、商業、工芸、詩、音楽、戦いなどを幅広く司る神であり、高い知性と豊かな感性が逞しさを伴って内在していることをうかがわせてくれます。知恵の象徴としてイェール大学やコロンビア大学など欧米の多くの教育機関にも設置されているものです。
  未来に飛翔していく生徒たちが自分たちの中に創り上げていくべきものが、ここに表象されているように感じています。すなわち、柔軟に発揮され発展していく知性と、深い思考と自由な発想を背景とした感性、そして好奇心旺盛に常にチャレンジし続けるスピリットです。洗足での時間と機会を通してこれらを養う、それこそが生徒たちの未来を拓く鍵となると考えているところです。そのために洗足では、学内外にさらに多様で良質な啓発と訓練のための機会を創出するとともに、授業のクオリティーを引き上げ、深い思索の場に昇華させていきたいと考えています。
  そして、より重要なテーマとなってくるのが、生き方の基本、選択の基準となるしっかりとした価値観を創り上げていくことだと考えています。幸福への公式はもとより、成功への定理もかすみつつあるように思われます。その一方で選択肢はさらに多様に広がり、社会環境は激変していきます。
  本校の6年間で、生徒の一人ひとりがそれぞれの価値観の階段を築きあげていくことができるよう、様々な教育プログラムの中に、人生や幸福を考える哲学的な啓発をちりばめていくつもりです。
  何よりも生徒たちには幸福な人生を歩んでいってほしいと願っています。そして、自分の能力を存分に発揮することによって、社会への貢献を通し、多くの人と喜びを分かち合える人生を歩んでいってほしいと願っています。集ったすべての生徒にとって、それぞれが幸福だと思える人生の礎を築く場、そのような学校となれるよう、教育進化の舵をとっていきたいと考えています。
  私たちは、生徒たちが卒業した後もずっと、その歩みを見つめ続けています。

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