Today & Tomorrow

校長 宮阪元子

Motoko Miyasaka

本当に幸福な自己実現が達成されていくことを願いながら
自らの心を掘り下げていく哲学的思考の時を、
新たに創り出していきます。

洗足での多様なチャレンジが成長のエネルギーとなり
視野と可能性を拡げていきます

 『もし私が、現在の洗足学園で6年間を過ごしたら、どんな人生を送っていたのだろう』と、このように考える時があります。これほどまでに多様な世界に触れることができ、また刺激やチャンスにあふれた中高時代が、どんな人生をもたらすのか、見てみたい気持ちになります。
  洗足学園には実にバラエティーに富んだ多くの知的・精神的啓発の場が設けられています。他流試合と呼ぶ学外の研究や研修、コンベンション等のプログラムへの参加数は、国内外を合わせますと、今や200を優に超え、さらに増え続けています。中には、生徒が自分で見つけてきてチャレンジするものもあります。また、土曜日には多様な教養講座が開設されており、学校という枠組みを超えた学びと体験があふれています。そう、ここはまさに挑戦の広場、Challenging Fieldなのです。
  洗足がなぜこれほど多様でたくさんのチャレンジの場を設けているのかというと、これらへの挑戦が生徒たちの内面に働き、時に覚醒させ、時に殻を打ち破らせるほどの大きな成長へと導く効果があるからです。では、「挑戦」と「成長」との間にどのような関係があるのでしょうか?
  成長を促す要因としては第一に「目標を持つこと」が挙げられます。目標は努力を引き出す大きなモチベーションです。しかしながら、10代の初期に将来に対する具体的目標を持っている人は、そう多くないのではないでしょうか。大学進学に対する漠然とした目標程度かもしれません。では、その漠然とした目標だけで、学びへの努力を継続し発展させていけるでしょうか。
  全ての学び、新しい知識に触れ、理解し、体験することには、それ自体に自分の中に隠れていた知的欲求を刺激するたくさんの要素が包含されているのです。本校を目指す皆さんの多くは、既に小学生の時からそのことを感じているのではないでしょうか。
  新しい知識を持つこと、物事の仕組みを理解することによって、見えてくるものがあります。そしてその先に、おぼろげな新しい景色がまた新たに感じられるようになるはずです。この知と精神の世界が持つ魅力こそ、学びを深め、学びを拡げ、学びを極めようとする力であり、あなたを成長へと導いていくのです。つまりチャレンジは、また新たなチャレンジを生み出し、やがて具体的目標を描きだすことにつながっていくのです。
  本校で開催するようになって今年度で4回目を迎える「ジャパンメトロポリタン模擬国連」の誕生は、チャレンジが発展する良い実例かもしれません。この日本版模擬国連は、海外で開催されたコンベンションに参加した生徒たちが発案したものです。数年間の継続参加を経て、「単に参加するだけでなく、自分たちがプログラムを考え主催者として実施してみたい、他校の生徒と共に自分たちで模擬国連をつくり上げたい」ということになったのです。僅か3校の参加から始まったこの「ジャパンメトロポリタン模擬国連」も昨年度は20校を超える参加までに拡大し、「さらに意義深い会議」にするための新たな工夫が始まっています。

幸福な自己実現を叶えるために
哲学的思考の時を創り出していきたい

  意欲的に学び主体的なチャレンジを繰り返す現在の洗足生たちは、驚くほど賢く、有能で、しかも積極的です。大学合格実績などという卑近な定規を持ち出すまでもなく、生徒たちの能力は、真綿が水を吸い込むように知識を吸い取り、多様なチャレンジを通して、その知識を知恵へと徐々に昇華させているようにも感じられます。彼女たちの可能性は計り知れないほど大きく、どのような壮大な夢であっても絵空事とは言えないでしょう。このレベルに至って私の願いは、ただ彼女たちの未来の幸福に向けられています。
  いかに賢く、いかに有能であったとしても、あるいはまた数多の学識を修めたとしても、残念なことに幸福は保証されていません。一体幸福は、どのようなメカニズムでそれぞれの中に成立するのでしょうか?この古くからの哲学的テーマを6年間の学校生活を通してそれぞれが考え、自分なりの回答を見つけ出せるようにしていくことを、洗足の教育の新しいテーマにしていきたいと考えています。
  「あなたはどんな時に幸福を感じますか?」-まずはこの単純な問いを、生徒たちの学校生活の中に投げかけていきたいと思っています。この問いかけを頭の片隅に置いて、学びの時に、様々な活動の時に、挑戦の時に、自らに問いかけてみて欲しいと思っています。
  この効用は大きく三つあると考えています。
  第一には、自分の行動や判断、進路など、大小の様々な決断の要素として意図的に「幸福」という定規を加えて考えていくことによって、徐々にそれぞれの判断基準や価値観の順序が確立されていくことになると思われることです。高い能力を有していればいるほど、実社会では明確な判断を求められることが多くなります。正しい価値観と明確な判断基準を持っている自分を養っておくことが、必ず将来大きな助けになってくるはずです。
  第二には、自らの幸福感を掘り下げていくことによって、他者の幸福にも心を配ることができるようになることです。人は感情を持った動物です。他者の心に配慮した言動が、学校においても社会においても、良好な人間関係を創り上げる基本です。
  第三には、深い思考習慣が身につくことが挙げられます。「幸福」という正解の見えにくいテーマを頭の片隅に置き、自らの心を掘り下げていく哲学的思考活動は、物事の是非や道理を深く考えていくことにつながっていくはずです。実際、例年高校1年では新学期早々にHR研修を実施していますが、近年、このような問いに関して、とことん話し合うということを行っています。正解が見えにくい、あるいは一つではない問いかけに対して、とことん話し合い、考えを深めることは、その後の学校生活においても、学びの本質を見極めようとする態度となって現れています。

男女共からリスペクトされる女性を
洗足から輩出してきたい

  先日もベルリンで、女性の社会進出について話し合う「女性20サミット」が開催されましたが、「女性の社会進出と活躍のあり方」は、未だ課題の多い世界共通のテーマです。洗足学園でも、有能な女性を多く輩出する女子校として、真剣に考えていかなければならない重要なテーマとしてとらえております。男女協働に横たわる障壁、出産や育児と仕事の両立の仕方、そして女性の幸福と社会的成功等々、未解決の課題について考え続けております。未だ妙案は浮かんできていません。それは日本の実社会でも同じで、女性活躍のための制度は徐々に広がってきたものの、本質的な解決には至っていないのが現実です。
  この課題の本質的な解決のためには、もっと多くの女性が社会に出ていかなければならないのだろうと思います。単に有能なだけではなく、他者の気持ちを慮りながら、深い思考を伴って上手に自己アピールしていける、男女共から認められ尊敬される人物。これからの時代は、まさに、そのような、品格があり魅力的な女性がどんどん社会に出ていく時代となるでしょう。そして、その数が増えるに従って、課題は自ずと解消されていくのではないだろうかと考えます。洗足の教育としての新たなチャレンジ、「哲学的思考の時」が、明確な価値観と深い思考をそれぞれの中に創り出し、本当に幸福な自己実現が達成されていくことを願いながら、より賢く、より深く生徒たちと関わっていきたいと思っています。

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